サンダルウッドの丘の家より ♯5 / 山崎美弥子


第二章 後編   船を降りて上陸し/ナエハとヒナノエ


わたしたちは、この島の南の、パイと名づけられた風が吹きぬける、カミロロアの地に導かれました。そして、 自分たちの手でその地に家を建てました。 目には見えないナ・アウマクア(神々/先祖たち)の、尊き手と手に助けられながら。乾いた雑草に覆い尽くされ、ひび割れていたこの土地に、こころを寄せ、思いをそそぎ、花や食物の種を蒔いて、一本一本、木の苗を植えました。赤や黄のハイビスカスや、ピンクのジンジャー、赤紫色の桑の実に、柘榴(ざくろ)と無花果(いちじく)の木。その苗たちさえも、島人たちや林から、細い枝を分けてもらっては根をつけさせ、この手で生かした命でした。島中から、生命の根源である宝、草木の種子や実を集めては、この地へと持ち帰りました。ダークグリーンのラウカヒや、紫色の花を咲かせるポーフエフエ、ふわふわの葉をしたウハロア、そしてカロ(タロ芋)に、色とりどりのキー(ティーリーフ)、ククイにハウ。それらの多くは、島の在来の種であり、遠い時代から生活の中で、様々に生かされてきたもの。薬効のある実や草花でもありました。こどもたちの足を傷つけるトゲのある雑草のタネは、ひとつぶひとつぶ地面から指で拾い集めては片づけました。それは気の遠くなるような、でも、このうえないほど贅沢な作業でした。


裸足でこの地を踏みしめていた古代の美しい島人たち。 それを野蛮とみなした異国からやって来た人々が、あえてトゲのある草木を持ち込んだのだと。大地と一体となって生きていた島人たちに、固い靴を履かせてしまうために。皮膚の感覚でこの地に触れ、源と繋がることをできなくさせるために。…無数に落ちている、たった二ミリほどの、トゲある幾種ものタネを、果てもなく拾い上げていく。それはまるで、とある人類の罪滅ぼしのようでもあり、そして、そのことにおのれの人生の中のひと時を捧げることができることは、まぎれもない祝福でもありました。

来る日も来る日も、水平線が珊瑚色に滲みだすトワイライトの時刻まで。ブラウンシュガーのように日に焼けた足の甲たちが、一層色濃く土色に染まるにつけ、神々が、わたしたちに巡り会わせたこの土地は、ゆっくりと、ゆたかに満ちてゆきました。


レビーは捨て去られた太陽光発電のパネルをリサイクルし、自分の力で屋根に設置し、グレイ・ウォーター(生活排水)は下水に流さず、すべて果樹などの植物に与えるように配管をしました。そうして、のちには池を掘り、自分たちが食するものを更に育てるために、アクアポニクスのグリーンハウス(水産養殖と水耕栽培を融合させた循環型農業システム)も、すべてその手で作りあげました。他の用途をまっとうし、処分された鉄くずなど、様々な部品を可能な限り、再び生かしながら。

こうして、かつてサンダルウッドの森だったという、水平線を望む小高い丘の上に建てた家。わたしたちがその屋根の下で暮らし始めることができるようになったのは、きらかいがちょうど、二回目のバースデーを迎えるほんの数日前のことでした。バースデーの夜、島人のキッチンから譲られた、古めかしいオーブンを初めて使って、わたしはケーキを焼きました。 

三人で、手をつないでしずかに祈り、祝いました。ちょっと焦がした不器用なチョコレート・ケーキには、小さなキャンドルを立てて。その時のきらかいは、二歳になった自分をやっとの思いで二本指であらわすのがせいいっぱいの、ほんの小さな赤ん坊でした。建てあげたばかりのわたしたちの家の中。ホノルルから貨物船でやって来た、米軍払い下げのナンバーが振られたオフィスチェアーを、ダイニングテーブルにあてがい、三人だけで座って。白浜色に塗りたてたリビングルームの天井は、まるで鐘を下げる塔のように、高く、気高く感じられ。窓枠に切り取られた四角い夜空にちらかった星たちが、わたしたちの、それはささやかなしあわせを、やさしく照らしてくれました。


時は過ぎ去り、きらかいはその名の通り、この島の光にきらきらと満たされた眩しい少女に成長しました。島のわんぱくなロコ・ボーイたちもお手上げの、おてんばきわまりないモロカイ・ガールに。そして、わたしたちにあの切ない、幸福なる胸の痛みを、思い出させ続けてくれているのです。


この「ち」にはぞくさない。


そう宣言して生まれて来た子。

でも、この子こそが、わたしたちをこの島の「地」へと導き、この大地へとわたしたちを結びつけてくれた、そしてわたしとレビーと、彼女のその「血」で繋がり、オハナ(家族)としてわたしたちをより深く結びつけてくれた、そして、この惑星の先住民族がわかちあう、魂の存在としてこの星の上で生きるための「知」、知恵。この島にも、ナ・アウマクア(神々/先祖たち)から伝わる宇宙の「智」、叡智を、わたしたちがもう一度、しっかりと思い出すための、未来を見せるためにやって来た…そうです。彼女は遠い星からの使者だったのです。

…あの、誕生日を祝った夜。黒はまるで絹のように。きっと、シャイな流星でさえ口ずさんでいたに違いありません。バースデー・ソングを音の無い星の言葉で。



★この連載は、毎月新月と満月の日に更新します。



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